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Environment 環境

生物多様性

「生物多様性」についてご紹介している住友商事のサステナビリティページです。

基本的な考え方

住友商事グループの事業活動は、地球上の多様な生物とそれらのつながりにより生み出される生物多様性がもたらす恵みに大きく依存しています。従って、当社グループの環境方針で明示している通り、自然生態系等の環境保全ならびに生物多様性の維持・保全に十分配慮することは当社グループにとって重要な課題であると認識しています。生物多様性に重大な影響を与え得る事業活動に関して、どのように生物多様性に依存しているのか、また、どのような影響を与えているのかを把握した上で、生態系への影響を最小化し、保全・再生に寄与することに努めます。

環境方針

株式会社ディ・エフ・エフ

TNFD提言に基づくトライアル開示

TNFD提言に基づく情報開示

目次

1. はじめに

当社は、2022年6月にTNFD(※)の理念に賛同し、その活動を支援しサポートするTNFDフォーラムに参画しました。また2024年1月には、TNFDが2023年9月に公表した開示提言を早期採用する「TNFD Early Adopter」に取締役会の決議を経て登録し、2025年9月の本開示に至りました。

TNFD提言に基づいた開示およびステークホルダーとの対話を通じて、事業による自然資本の保全・再生に向けた取り組みを加速させていきます。

  • Taskforce on Nature-related Financial Disclosures(自然関連財務情報開示タスクフォース)。自然資本及び生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価し、開示するための枠組みを構築する国際的な組織。

2. ガバナンス

体制

当社グループでは、サステナビリティ全体に関するガバナンス体制の下で、リスクや機会の評価、意思決定、業務執行・監督を行っています。取締役会の監督、経営者の役割については当社ウェブサイト「サステナビリティ経営のガバナンス」をご参照ください。当該ページで記載されている、サステナビリティ関連の重要な経営事項、サステナビリティ経営施策には自然資本のトピックスを含んでいます。

また、サステナビリティ施策等について経営会議から諮問されるサステナビリティ推進委員会、そのサステナビリティ推進委員会に対して自然分野を含むサステナビリティに関する助言を行う外部有識者からなるサステナビリティ・アドバイザリーボードを設置し、複雑で専門性を要する課題に関する経営の意思決定に反映させる体制としています。2024年5月の自然資本のマテリアリティへの追加や、その取り組み強化等について、サステナビリティ・アドバイザリーボードより助言を得て取り進めています。

当社グループでは取締役会・経営会議での議論を経て各種方針を定め、その方針に基づき事業運営をしています。具体的には、「環境方針」に基づいた循環型社会構築への寄与等を含めた自然資本への取り組み、「気候変動問題に対する方針」に基づいた2050年の自社事業および社会のカーボンニュートラル化に向けた取り組み、「住友商事グループ人権方針」および国際規範(※)に基づき先住民・地域住民も含めた多様なステークホルダーとのエンゲージメントを含めたリスク低減の取り組みを、ガバナンス体制の基で執行・監督しています。

それぞれの詳細は以下をご参照ください。

「環境方針」およびその取り組み
「気候変動問題に対する方針」およびその取り組み
「住友商事グループ人権方針」およびその取り組み

  • 「国際人権章典」、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づいた同意(free, prior and informed consent: FPIC)」の原則など

3. 戦略

当社グループでは、気候変動や生物多様性の損失など近年の社会課題の一層の深刻化や、当社グループの強み、ステークホルダーからの期待も踏まえ、社会課題の解決を通じて持続的な成長を実現すべく、2024年5月に「マテリアリティ」を更新し、「自然資本を保全・再生する」を新たに掲げました。加えて、中期目標として「2030年ネイチャーポジティブに向けた取り組みの促進」を設定しました。さらに、この中期目標に対する理解醸成・取り組み強化を目的として、当社にとってのネイチャーポジティブに向けた取り組みを「事業による自然資本への影響を最小化し、自然資本の保全・再生に向けてビジネスを変革し続けていくこと」と定義しました。事業を通じたリスク低減および機会創出の両面で取り組みを加速させていきます。

3.1 リスク低減

当社グループでは、事業による自然への影響を最小化させるために様々な取り組みを行っています。

まず、「環境方針」において、自然生態系等の環境保全ならびに生物多様性の維持・保全に十分配慮することを掲げ、自然関連リスクが高いと考えられる、鉱山事業、大規模開発事業(発電、都市開発など)、森林事業などについては、国際基準や各国法令等に基づく環境影響評価の実施、個別方針策定やサプライヤー管理等により、個別に自然資本へのインパクトを緩和する対策を従来から実施してきました。例として、森林事業について持続可能な森林経営を定める森林経営方針、当社事業が調達する林産物について環境、社会面でのコミットメントを掲げる林産物調達方針を策定しており、方針に沿って事業を運営しています。(詳細はこちらをご覧ください)。

加えて、リスクベースアプローチでの取り組みを強化すべく、2024年度から自然資本の観点で当社グループのリスクの高い事業やサプライチェーンの特定、シナリオ分析による将来も含めたリスクの評価、およびリスクへの対応策の確認といったリスク分析を新たに進めています。リスクの高い事業については、既に優先的に取り組むべきセクター・事業を特定し、5事業についてリスク分析を実施しました。その結果、環境影響評価の実施や海水淡水化による淡水取水量の削減、保全活動の実施等、既に個別に自然資本へのインパクトを緩和するための対策を実施していることを確認しています。サプライチェーンについては、自然への影響が大きいとされるコモディティの取り扱い有無等を考慮して優先サプライチェーン特定の取り組みを開始しています。(詳細は後述の4.リスクとインパクトの管理を参照)。

3.2 機会の創出

自然資本に関する新たな事業開発にも挑戦しています。

特に循環型経済への転換を促す製品・サービス・仕組みづくりに大きな事業機会があると捉えており、以下のような具体的な取り組み事例も出てきています。

  • トムラ・ジャパンにおけるPET等回収リサイクル事業
  • Werner Aeroにおける航空機のパートアウト事業
  • 太陽光パネルのリユース・リサイクル事業確立に向けた実証実験

また、経済産業省が推進する「サーキュラーパートナーズ(CPs)」に参画し、ルール形成への参画やネットワーキング等を図り、循環型経済に貢献する事業の創出に取り組んでいます。

さらに、自然資本を取り巻く潮流をいち早く捉え、事業を通じた自然資本の保全・再生に向けて、組織横断で取り組むため、複数の営業グループおよびコーポレート組織からメンバーが集う「ネイチャーポジティブ事業化検討ワーキンググループ」を2023年度から設立しています。CSOを座長とし、設立当初5名だったメンバーは現在50名にまで拡大しています。ワーキンググループでは、各メンバーが取り組み事例や外部動向を共有し、事業創出の加速に向けて連携を深めています。こうした事業創出の事例として、2025年度には、マングローブ植林由来のカーボンクレジット事業へ参入しました。当該事業は、脱炭素化に向けた市場成長を促進するとともに、マングローブによる多様な生き物の生息地の確保・水質浄化等の生態系サービスの向上への寄与や、マングローブの育成管理等を行う地域住民の就業機会拡大・生計向上への寄与を通じて、ネイチャーポジティブへ貢献するものであると捉えています。

当社グループでは、以上のようなリスク低減と機会の創出の両面での取り組みを行っていますが、ネイチャーポジティブに向けた取り組みについては、今後国際的なルールや指標の策定・更新が見込まれるなど、社会全体として発展過程にあるものと認識しています。したがって上記戦略についても、投資家をはじめとしたステークホルダーとの対話を積極的に行いながら、今後の外部環境の変化を正しく捉え、当社の自然資本の取組みに反映していきます。

4. リスクとインパクトの管理

4.1 リスクとインパクトの管理体制

当社グループの事業活動は様々な社会課題と関わりを持っており、常にそれらの社会課題を経営判断や事業の執行に反映させるため、各事業から生じる社会・環境への影響を適切に評価、管理し対処するための全社的なフレームワーク、方針を設定し、グループ内で周知・徹底を図っています。社会・環境関連リスクの考え方、管理体制の詳細については、リスクマネジメントをご覧ください。

4.2 新規事業の自然関連リスクとインパクトの管理

新規投資の審査プロセスにおいては、まず投資の実行主体である担当SBUが社会・環境関連リスクの評価シートを作成し、対象事業のリスクと機会を確認しています。この評価シートでは、人権・地域社会への影響、環境汚染・自然破壊、気候変動リスクなど、大きく8つの社会・環境項目について、新規事業(投資先企業)の自社事業活動および事業パートナー/下請け先/直接の仕入れ先などサプライチェーンにおける影響について評価し、問題・課題が認められた場合には国際的な基準・標準等も参照しながら必要な対応を実施します。その結果は案件の規模や重要性に応じて経営会議の諮問機関である全社投融資委員会での審議に活用され、審議内容を踏まえて経営会議・取締役会等で意思決定が行われています。

4.3 既存事業の自然関連リスクとインパクトの管理

当社グループの既存事業は多岐にわたるため、事業セクター・地域に応じて自然資本への依存やインパクトなどの自然との関係性が異なります。そういった事業特性を踏まえて従来個別の取り組みを進めてきましたが、中期目標で掲げた「2030年ネイチャーポジティブに向けた取組みの促進」のためには全社視点でのリスクとインパクトの整理および施策検討も必要であると考えています。

そこで2024年度より、全社横断的に当社グループの事業をサプライチェーンも含めて俯瞰し、自然資本への依存・インパクトが大きい事業を特定し優先的に管理・対応を行うリスクベースアプローチに基づく取り組みに着手しています。サプライチェーン全体をグループ会社の操業拠点(直接操業事業)と、それ以外のサプライチェーンに大別して優先事業を特定し、リスク・機会の特定・評価を行っています。

  • なお、自然関連のリスク・機会には気候変動のリスク・機会も含まれますが、当社は気候変動に関してTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づいたリスク・機会の分析を6セクター22事業を対象に行い、開示しています。そのため、TNFD基づいた自然に関するリスク・機会の分析と開示は、気候変動以外(水、生態系など)を対象として行っています。気候変動に関するリスク・機会については気候変動ページをご確認ください。

4.3.1 直接操業事業についての取り組み

直接操業事業に関する優先事業を特定するための全体像は、以下に示すとおりです。

優先事業特定の全体像

4.3.1.1 優先事業の特定ステップ
(1)一般的な高依存・インパクトセクターの特定

最初のステップとして、当社事業のポートフォリオ全般の自然資本への依存とインパクトを分析し、一般的に高依存・インパクトとされるセクターを特定しました。

分析には、国際的に活用されている「ENCORE」(※)を用い、合計33項目についてセクターごとに自然資本への依存とインパクトを評価し、その結果に基づき、依存とインパクトのレベルを「Very High (VH)」、「High (H)」、「Middle (M)」、「Low (L)」の4段階で算出しました。そして、依存レベルとインパクトレベルのどちらかが最も高いVHであるか、依存レベルとインパクトレベルの両方が2番目に高いHであるセクターを、高依存・インパクトセクターとして20選定しました。

  • ENCORE:セクターごとの自然資本への依存やインパクトのレベルを評価するツール。国連機関UNEP-WCMC等複数の団体により維持管理されている。

一般的な自然資本への依存・インパクトの要素分析による、高依存・インパクトセクターの選定結果

(2)当社グループにおける優先セクターの特定

次のステップとして、選出された一般的な高依存・インパクトセクターごとに、当社グループの50超の直接操業事業との紐づけを行い、当社グループにおける11の優先セクターを特定しました。優先セクターの自然資本への依存・インパクトレベルは以下に示すとおりです。

当社グループにおける優先セクター一覧

優先セクターの依存21項目の評価結果

優先セクターのインパクト12項目の評価結果

参照先:ENCORE Explore Tool 2018-2023版

(3)当社グループにおける優先事業の特定

自然資本に関連する依存やインパクト、リスクや機会は場所により大きく異なることから、地域性を考慮する必要があります。そこで、次のステップとして優先セクターに紐づく50超の直接操業事業に対して、生態学的な要注意地域に位置する事業を特定するためのロケーション分析を実施しました。

なお、ロケーション分析では、立地ごとのリスクを分析できる外部ツールが現時点では限られていることから、「Aqueduct」、「Global forest Watch」の二つのツール(※)を使用し、「水ストレス」、「生態系のセンシティビティ」、「樹木被覆の減少」、「先住民族・コミュニティの土地」の4つの項目を対象として、分析を行いました。

  • Aqueduct:WRI(World Resources Institute、世界資源研究所)が開発した、水ストレス等を分析するツール。
    Global Forest Watch:WRIが開発・運営する、森林の減少と気候変動への影響を把握するためのツール。

各項目の分析方法は次の通りです。

ロケーション分析方法

「水ストレス」、「生態系センシティビティ」の2項目については、全ての事業に対して分析を実施しました。「樹木被覆の減少」、「先住民族・コミュニティの土地」についてはセクターの特性を考慮して該当する事業のみ分析を実施しました。分析の結果、4つの分析項目のうち1つでもHighとなった事業の中から、投下資本額の規模や戦略的な重要性を踏まえて、当社グループにおける自然資本の観点での優先事業を特定しました。

上記のステップで特定した優先事業のうち、25年度は、以下5事業のLEAP分析結果を開示します。

セクター 事業
農業
  • 欧米州青果事業:Fyffes
鉱山
  • チリ銅鉱山事業:Quebrada Blanca
  • 南アフリカ鉄鉱石・マンガン鉱山事業:Oresteel
  • ブラジル鉄鉱石鉱山事業:MUSA
火力発電
  • UAEガス火力発電事業:Hamriyah

なお、「先住民族・コミュニティの土地」については、5事業のロケーション分析では土地・領土の権利侵害のリスクが高であるエリアに位置する事業は確認されなかったため、以降の記載を省略しています。 ただし、リスク分析の結果に関わらず、当社グループは人権尊重へのコミットメントの一環として「先住民族の権利に関する国際連合宣言」「自由意思による、事前の、十分な情報に基づいた同意(free, prior and informed consent:FPIC)」の原則などの、先住民族の権利に関する国際規範を尊重しています。また、先住民族が在住する地域での事業活動においては、先住民族が有する固有の文化や歴史を認識し、それぞれの国や地域で適用される法令や環境許認可等を遵守しており、先住民族・コミュニティへの配慮を行いながら操業しています。

【参考】人権の尊重

4.3.1.2 優先事業のLEAP分析結果
(1)LEAP分析のステップ

TNFDのLEAP(発見・診断・分析・準備)のステップに沿って以下の通り実施しました。

(2)優先事業のLEAP分析結果サマリー

優先事業ごとに分析した結果のサマリーは以下の通りです。いずれの事業においても、ロケーション分析において特定されたリスクHighの項目に対して、リスクへの一定の対策が既に実施されていることが確認されました。

(3)個別事業ごとのLEAP分析詳細
【農業セクター】欧米州青果事業:Fyffes

①事業概要

当社の子会社であるFyffes(以下「本事業」)は、青果の生産や流通、販売を幅広く手掛けている事業です。バナナ、パイナップルを主力商品として取り扱い、中南米を中心に生産・調達した青果物を、欧州、北米で販売しております。

②Locate/Evaluate(発見・診断)

【セクターの依存・インパクト】
セクターレベルでの依存・インパクトの分析の結果、セクション4.3.1.1(2)に記載の通り、農業セクターでは一般的に「水の利用」と「土地の利用」によるインパクトが特に大きく、「植生」や「地下水」に依存しているとされています。
【ロケーション分析】

「水ストレス」「生態系センシティビティ」「樹木被覆の減少」について、中南米の農園についてロケーション分析を実施しました。

分析の結果、いずれの拠点でも水ストレスは高くないことが確認されました。一方で、生態系センシティビティについては、一部の拠点において、近隣に国際的に重要性が認知されている、「KBA(Key Biodiversity Area)」(ベリーズ、コスタリカ)または「生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)」 (コスタリカ)が存在することが確認されました。また、一部拠点の周辺地域において、樹木被覆の減少がみられることが確認されました。

なお、「先住民族・コミュニティの土地」の分析結果は4.3.1.1(3)の通り記載を省略しています。

③Assess(分析)

【想定される事業へのリスク評価と対応策】
  • 潜在的なリスクの認識・分析結果

    セクターの一般的な依存・インパクト及びロケーション分析の結果、生態系のセンシティビティおよび樹木被覆の減少が特に対処が必要なリスクとなるため、それらの潜在的なリスクの将来変化を把握するべく、物理的リスクおよび移行リスクのシナリオ分析を実施しました。

    <物理的リスク>
    Climate Impact Explorer(※)を用いて樹木被覆や生態系センシティビティへの影響が大きい洪水リスクのシナリオ分析を実施しました。その結果、将来に渡って洪水発生リスクは低いことが確認されました。

    • Climate Impact Explorer:地域別・シナリオ別に物理的リスクを分析できるClimate Analyticsが開発したツール。

    <移行リスク>
    土地改変による森林減少防止を目的とした規制が国・地域レベルで進展することで、関連品目に対しトレーサビリティ対策の強化等にコストが発生する可能性が考えられます。そのため、規制・市場・レピュテーション・技術の4つの観点のうち、規制リスクが主に対処するべきリスクであると考えられます。

  • 潜在的なリスクに対する本事業の評価と対応策

    本事業においては、サステナビリティ課題に関するマテリアリティ分析を継続的に実施しており、生態系保全や森林伐採や土壌侵食等を重要な課題として認識しています。そのため、2021年には本事業のコスタリカのバナナ農園がレインフォレスト・アライアンス2020認証を世界で初めて取得しました。また、土壌劣化を抑制するための土地保全プログラムを実施しており、所有地全体の約20%がその対象となっています。具体的には、バナナやパイナップル農園周辺での保全地域の設定、土壌浸食を防ぐための自然植生の保全や再植林、農場および約3,000ヘクタールの保全地域での生物多様性調査や保全計画策定等を実施しています。さらに、生態系や樹木被覆や水域を保全するため、農薬使用量減少に関する様々な病害虫管理の取り組みを実施しています。

    そのため、生態系のセンシティビティや樹木被覆の減少に係る潜在的なリスクへの対応策を既に備えていると考えています。

対応策の更なる詳細は、Fyffes社が発行するサステナビリティレポートをご覧ください。

④Prepare(準備)

【今後の対応】
今後も、保全地域での取り組みの継続や生物多様性調査の結果をモニタリングすることによって、生態系や樹木被覆の減少抑制への取り組みを継続していきます。また、新規の農地開発を考慮する際には、今後高まるであろう規制リスクへの対応も考慮し、森林破壊防止に向けた取り組み・モニタリングを継続していきます。
【目標・指標】
潜在的なリスク 指標 データ TNFD指標番号
生態系センシティビティ 陸域生態系の保全範囲 2022年時点で約3,000ヘクタールの保全地域を設定済
(保有地の約20%相当)
C1.1
【鉱山セクター】チリ銅鉱山事業:Quebrada Blanca

①事業概要

Quebrada Blanca銅鉱山事業(以下、「本事業」)は当社、住友金属鉱山株式会社(以下、「住友金属鉱山」)およびカナダの資源メジャー企業であるテック・リソーシズ(Teck Resources Limited)がチリ共和国北部のタラパカ州にて共同で運営する銅鉱山事業であり、当社および住友金属鉱山は2019年から参画しています。本事業はフェーズ2の操業を2023年より開始しており、今後25年以上にわたる長期安定的な生産を続ける計画です。

②Locate/Evaluate(発見・診断)

【セクターの依存・インパクト】
セクターレベルでの依存・インパクトの分析の結果、セクション4.3.1.1(2)に記載の通り、鉱山セクターでは一般的に、「水の利用」、「陸上生態系の利用」によるインパクトが特に大きいとされています。
【ロケーション分析】

本事業では「水ストレス」「生態系センシティビティ」についてロケーション分析を実施した結果、本事業が立地する地域においては、「水ストレス」が高いことが確認されました。一方で、「生態系センシティビティ」については、本事業の近隣に保護区等の生物多様性の観点で重要なエリアは存在せず、リスクが低いことが確認されました。

なお、「先住民族・コミュニティの土地」の分析結果は4.3.1.1(3)の通り記載を省略しています。

③Assess(分析)

【想定される事業へのリスク評価と対応策】
  • 潜在的なリスクの認識・分析結果

    セクターの一般的な依存・インパクト分析及びロケーション分析の結果、水ストレスが特に対処が必要なリスクとなるため、水ストレスに関する潜在的なリスクの将来変化を把握するべく、物理的リスクおよび移行リスクのシナリオ分析を実施しました。

    <物理的リスク>
    AQUEDUCTを活用し将来の水ストレス予測を分析した結果、いずれのシナリオ(Pessimistic、Business as Usual、Optimistic)においても、将来(2030年、2050年、2080年)にわたり水ストレスが高い状態が継続することが確認されました。

    <移行リスク>
    チリでは水資源枯渇が問題として広く認識されており、海水淡水化など、淡水の取水を削減するための設備導入の必要性が議論されています。従って、今後、内陸水の利用に関する規制が厳しくなる可能性があります。そのため、移行リスクの規制・市場・レピュテーション・技術の4つの観点のうち、規制の観点が特に対処すべきリスクと考えられます。

  • 潜在的なリスクに対する、本事業の評価と対応策

    本事業では、海水淡水化設備を既に導入済みであり、事業に必要な水の9割以上を海水淡水化によって確保しています。加えて、使用した水の8割以上を再利用することで、淡水の取水量を大幅に低減しています。従って、取水による地域の水源への影響を最小化し、水ストレスの高い状態が継続することによる物理的リスクや、規制の観点での移行リスクを含む水ストレスに係る潜在的なリスクへの対応策を既に備えています。

④Prepare(準備)

【今後の対応】
本事業では、水利用のみならず生態系、先住民族の土地等に関する現地国の厳しい法規制を遵守し操業を行っており、今後も引き続き関連法規制を遵守した事業運営を行います。また、潜在的なリスクとして確認された水ストレスについて、取水量や水再利用・リサイクル率といった指標をモニタリングしながら事業を進めていきます。
【目標・指標】(情報ソース:Tech Resources Ltd)
潜在的なリスク 指標 データ(2024年) TNFD指標番号
水ストレス 取水量(ML)
High Qualit(※) Low Quality(※)
表流水 599 0
地下水 4,024 0
海水 0 45,827
第三者経由 9 0
C3.0
水再利用・リサイクル率 84% A3.2
  • High quality:飲料水、農業用水など多用途に利用可能で、飲料水基準を満たすために最低限から中程度の処理が必要となる水
    Low Quality:工業用水などを除き有益な用途の可能性が低く、飲料水基準を満たすために大幅な処理が必要となる水
【鉱山セクター】南アフリカ鉄鉱石・マンガン鉱山事業:Oresteel

①事業概要

当社の持分法適用会社であるORESTEEL INVESTMENTS (PROPRIETARY) LIMITED (以下「Oresteel」)は、南アフリカの鉄鉱石・マンガン鉱石生産会社Assmangの株式50%を保有するAssoreの持株会社です。Oresteelは南アフリカを拠点としており、Assoreを通じてクロム鉱山等を、またAssmang(Assore及びAfrican Rainbow Minerals(ARM)が株式50%ずつを保有)を通じて鉄鉱山、マンガン鉱山等を間接的に複数保有しています。

②Locate/Evaluate(発見・診断)

【セクターの依存・インパクト】
セクターレベルでの依存・インパクトの分析結果、セクション4.3.1.1(2)に記載の通り、鉱山セクターでは一般的に「水の利用」、「陸上生態系の利用」によるインパクトが特に大きいとされています。
【ロケーション分析】

「水ストレス」「生態系センシティビティ」についてロケーション分析を実施した結果、各鉱山(今回の分析対象はKhumani鉄鉱山、Black Rockマンガン鉱山の2鉱山)が立地する地域においては、水ストレスが高いことが確認されました。一方で、生態系センシティビティについては、各鉱山の近隣に保護区等の生物多様性の観点で重要なエリアは位置しないことが確認されました。

なお、「先住民族・コミュニティの土地」の分析結果は4.3.1.1(3)の通り記載を省略しています。

③Assess(分析)

【想定される事業へのリスク評価と対応策】
  • 潜在的なリスクの認識・分析結果

    セクターの一般的な依存・インパクト分析及びロケーション分析の結果、水ストレスに関するリスクが、特に対処が必要なリスクとなるため、水ストレスに関する潜在的なリスクが将来どのように変化していくかを把握するべく、物理的リスクおよび移行リスクのシナリオ分析を実施しました。

    <物理的リスク>
    AQUEDUCTを活用し将来の水ストレス予測を分析しました。分析の結果、いずれの鉱山が立地する拠点において、またいずれのシナリオ(Pessimistic、Business as Usual、Optimistic)においても、将来(2030年、2050年、2080年)水ストレスが高い状態が継続することが確認されました。

    <移行リスク>
    今後、水ストレスが高い状態が継続する場合、南アフリカにおいて鉱山セクターにおける淡水利用に対する制限が強化される、またこれに伴う追加設備・技術導入による追加コストが上昇する、といったリスクが潜在的にあると考えられます。そのため、規制・市場・レピュテーション・技術の4つの観点のうち、規制リスクと技術リスクが主に対処するべきリスクであると考えています。

  • 潜在的なリスクに対するOresteelの評価と対応策

    Khumani鉄鉱山においては、水回収、貯水設備の建設、雨水管理の改善といった包括的な対策を行っています。また生産量1トン当たりの水利用量目標を設け、実績のモニタリングを実施しています。加えて、Black Rockマンガン鉱山においても再生水の利用、雨水管理の改善に加え、近隣コミュニティにおいて処理水の使用を推奨することで、地域全体の取水量を減らす取り組みを行っています。

    各鉱山において内陸水の取水量を削減することで、取水による地域の水源への影響及び将来にわたり水資源が枯渇した場合の事業への影響を最小化しており、水ストレスに係る潜在的なリスクへの対応策を既に備えていると考えています。

④Prepare(準備)

【今後の対応】

Oresteelでは水利用や生態系等に関する現地国の環境許認可等の厳しい法規制を遵守し操業を行っており、今後も引き続き関連法規制を遵守した事業運営を行います。

潜在的なリスクとして確認された水ストレスについては、水利用量(及び水再利用/リサイクル率)に関し、目標未設定の鉱山における対応状況を含めて、事業会社との対話を通じて確認していきます。また、引き続き現地における規制動向等を注視していきます。

【目標・指標】
潜在的なリスク 指標 データ TNFD指標番号
水ストレス 取水量 (万m3 決算年度(※) 2020 2021 2022 2023 2024 C3.0
Khumani 451 482 466 404 390
Black Rock 174 138 110 204 162
※Operational Water withdrawal
生産量1トン当たりの 水利用量 (m3/トン) Khumani 2024年度 0.312(目標値:0.319以下)
Black Rock ※今後、定量目標を設定予定
  • Oresteel社の決算月は6月
【鉱山セクター】ブラジル鉄鉱石鉱山事業:MUSA(Mineração Usiminas S/A)

①事業概要

Mineração Usiminas S/A(以下、「本事業」)は、Usiminas社が70%、当社が30%株式を保有する合弁会社であり、ブラジルのミナスジェライス州のセ―ハアズール地域において3つの鉱山を操業し鉄鉱石の生産、販売を行っています。

②Locate/Evaluate(発見・診断)

【セクターの依存・インパクトの分析】
セクターレベルでの依存・インパクトの分析結果、セクション4.3.1.1(2)に記載の通り、鉱山セクターでは一般的に、「水の利用」、「陸上生態系の利用」によるインパクトが特に大きいとされています。
【ロケーション分析】

「水ストレス」「生態系センシティビティ」のロケーション分析を実施した結果、水ストレスについては、本事業が位置する地域では水ストレスは高くないことが確認されました。一方で、生態系のセンシティビティについては、本事業が立地する地域は、高い生物多様性を有する熱帯原生林が分布する地域に位置していることが確認されました。

なお、「先住民族・コミュニティの土地」の分析結果は4.3.1.1(3)の通り記載を省略しています。

③Assess(分析)

【想定される事業へのリスク評価と対応策】
  • 潜在的なリスクの認識・分析結果

    セクターの一般的な依存・インパクト分析及びロケーション分析の結果、陸上生態系の利用によるインパクトが特に大きい事業であることを確認しています。高い生物多様性を有する熱帯原生林が事業地の近隣に分布する本事業では、「土地利用の変化」と「汚染(特にテーリングに由来する汚染)」が特に対処が必要なリスクとなるため、これらのリスクが将来どのように変化していくかを把握するべく、物理的リスクおよび移行リスクのシナリオ分析を実施しました。

    <物理的リスク>
    Climate Impact Explorer(※)を用いた分析を行いました。その結果、本事業が位置するブラジルのミナスジェライス州では、洪水や極端な降雨の発生可能性が将来上昇する可能性があることが確認され、テーリングダムなどの関連施設がダメージを受けた場合に、汚染物質が周辺環境に排出される可能性もあり、周辺の生態系や生物種に影響を与えるリスクが潜在的にあることを認識しています。

    • Climate Impact Explorer:地域別・シナリオ別に物理的リスクを分析できるClimate Analyticsが開発したツール。

    <移行リスク>
    近年の自然資本への関心の高まりや、鉱山セクターでのテーリング施設に由来する汚染の可能性が一般に認識されていることを踏まえ、閉山に伴う土地保全や、テーリングダム管理に関する規制が厳しくなり、追加の対応や、新たな技術の導入に係るコストなどが発生するリスクがあります。そのため、規制・市場・レピュテーション・技術の4つの観点のうち、規制および技術の観点が主に対処すべきリスクであると考えています。

  • 潜在的なリスクに対する、本事業の対応策と評価

    本事業では、土地利用の変化に対して環境影響評価を実施し、廃棄物の適切な管理や、植物や野生動物のレスキュープログラムなどの、土地改変による影響を最小化する緩和策を実施しています。また、鉱山フットプリントよりも大きい面積の土地を植林活動や保全地役権の設定、元来の植生保護等を行う保全・保護エリアとして確保しています。さらに、本事業が位置する地域で動物モニタリングプログラムを実施しており、将来的に調査結果等を地域での保全に生かしていくことを検討しています。従って、本事業では、こうした土地改変の影響緩和や保全・保護に係る取り組みにより、移行リスクを含む土地利用の変化に係る潜在的なリスクに対処可能であり、洪水や局所豪雨による関連施設への損害等の物理的なリスクにも効果があると考えております。

    テーリングに由来する汚染に対しては、従来式のテーリングダム設備の代わりに、プロセス水を再利用・循環することで外部環境への排水が発生しない安定性の高ドライスタッキングシステムの導入を進めており、日次での目視点検や地質工学的なモニタリングを含む、現地国の法規制を遵守した管理を行っているほか、水質モニタリングも実施して確認をしています。

    従って、土地利用や汚染に関する潜在的なリスクに対処可能であると考えています。

④Prepare(準備)

【今後の対応】

本事業では、水利用や生態系、先住民の土地等に関する現地国の環境許認可等の法規制を遵守し操業を行っており、今後も引き続き関連法規制を遵守した事業運営を行います。潜在的なリスクとして確認された土地利用の変化については、鉱山事業のフットプリントや保全・保護面積といった指標をモニタリングしていきます。

汚染については、2025年度には最後の従来式テーリングダムの解体が完了予定ですが、今後も継続して水質モニタリングを行うことで、事業活動が地域の水質に影響を与えていないか注視するほか、ドライスタッキングシステムからの排水についてもモニタリングしていきます。

【目標・指標】
潜在的なリスク 指標 データ(2024年) TNFD指標番号
土地利用変化 陸/淡水/海洋生態系の利用変化の範囲 鉱山事業の合計フットプリント:1,170 km2 C1.1
陸/淡水/海洋生態系の保全又は復元の範囲 法令又は規制により義務化:
Environmental Protection Area:6,700 km2
Legal Reserve:1,464 km2
C1.1
テーリングに由来する汚染 廃水排出 ドライスタッキングシステムからの排水:0 m3 C2.1
【火力発電セクター】UAEガス火力発電事業:Hamriyah

①事業概要

Hamriyahガス火力発電事業(以下「本事業」)は、アラブ首長国連邦 シャルジャ首長国で初となる大型IPP火力発電事業です。同国ハムリヤ地区に位置する本事業は、発電ユニット3基(約1,800メガワット)で構成されており、最初のユニットは2021年に、残りのユニットは2023年に商業運転を開始しています。

②Locate/Evaluate(発見・診断)

【セクターの依存・インパクト】
セクターレベルでの依存・インパクトの分析の結果、セクション4.3.1.1(2)に記載の通り、火力発電セクターでは一般的に「水の利用」によるインパクト及び「地表水」への依存が特に大きいとされています。
  • なお、GHG排出のインパクトに関しては、TCFDに基づいて気候変動リスクの分析・開示をガス火力発電事業として行っている気候変動のページをご確認ください。
【ロケーション分析】

「水ストレス」「生態系センシティビティ」についてロケーション分析を実施した結果、本事業が立地する地域は水ストレスが高いことが確認されました。また、生態系センシティビティについては、本事業の近隣に保護区が存在することが確認されました。

なお、「先住民族・コミュニティの土地」の分析結果は4.3.1.1(3)の通り記載を省略しています。

③Assess(分析)

【想定される事業へのリスク評価と対応策】
  • 潜在的なリスクの認識・分析結果

    セクターの一般的な依存・インパクト及びロケーション分析の結果、水ストレスに関するリスクが、特に対処が必要なリスクとなります。また、生態系センシティビティについても生物多様性の観点で重要なエリアが近接することからリスク評価結果がMiddleであるため、補完的に対処すべきリスクとなります。

    水ストレスに関する潜在的なリスクが将来どのように変化していくかを把握するため、物理的リスクおよび移行リスクのシナリオ分析を実施しました。

    <物理的リスク>
    AQUEDUCTを活用し将来の水ストレス予測を分析した結果、いずれのシナリオ(Pessimistic、Business as Usual、Optimistic)においても、将来(2030年、2050年、2080年)水ストレスが極めて高い状態が継続することが確認されました。

    <移行リスク>
    アラブ首長国連邦では、水資源枯渇が問題として広く議論されており、国家戦略や各種法規制においても持続可能な水資源の維持・管理の重要性が認識されています。従って今後、企業への水関連の対応が一層求められるなど、対応コストが発生する可能性が潜在的にあると考えています。そのため、規制・市場・レピュテーション・技術の4つの観点のうち、規制の観点が特に対処するべきであると考えています。
    また、生態系のセンシティビティについては補完的に対処すべき潜在的リスクであると考えられます。具体的には、発電所の冷却にあたって生じる温排水、また海水淡水化にあたって生じる高濃度塩水(ブライン)による汚染の環境影響が潜在的に発生する可能性があります。本事業が立地するサイトの近隣には、マングローブや貴重な海洋生態系が存在する湿地が位置することから、こうした生態系への影響の可能性が考えられます。

  • 潜在的なリスクに対する、本事業の評価と対応策

    本事業では海水淡水化設備を導入済みであり、淡水は使用しておらず、海水を淡水化することで事業活動に必要な水を確保しています。従って、取水による地域の水源への影響及び将来にわたり水資源が枯渇した場合の事業への影響を最小化しており、水ストレスに係るリスクへの対応策を既に備えていると考えています。

    また生態系センシティビティについては、本事業では温排水や高濃度塩水(ブライン)等による汚染の環境影響が想定されますが、いずれも環境影響評価の結果、海水表面で分散・希釈されるため海洋生態系への影響は軽微かつ基準内であることが確認されました。加えて、近隣のサンゴや真珠貝が生息するエリアでは年次の海洋生態系調査も行っており、本事業の活動のみに起因する広範な環境悪化が起きていないことも確認しており、生態系センシティビティに係る潜在的なリスクにも対処可能であると考えています。

④Prepare(準備)

【今後の対応】
今後も海水消費量や温排水温度のモニタリングを継続して実施していきます。また、将来的に海水淡水化設備の新設も想定していることから、こうした設備に対しても生態系影響に関する適切な評価を行います。
【目標・指標】
潜在的なリスク 指標 データ TNFD指標番号
水ストレス 取水量 淡水の使用なし(海水を淡水化して使用)
【参考】
海水消費量2024年:約8.4億㎥
C3.0
生態系 センシティビティ 温排水の温度 2024年11月:
35.4℃(Outfall-10)
32.3℃(Outfall-30)
※取水時(30.7℃)との温度差は 4.7℃であり、現地基準±5℃以内の閾値内
C2.1
【参考:評価方法概要】

「水ストレス」、「生態系のセンシティビティ」、「樹木被覆の減少」、「先住民族・コミュニティの土地」の各観点の評価方法の概要を以下に示します。

水ストレス

「AQUEDUCT」を活用し、事業拠点が位置する地域における水ストレス(Baseline Water Stress)を確認し、そのレベルに応じ、「高リスク」、「中リスク」、「低リスク」の3段階でリスクを評価しました。

AQUEDUCTを活用した水ストレス確認のイメージ
生態系のセンシティビティ

「Global Forest Watch」を活用し、生物多様性の観点で重要な以下のエリアと事業拠点の位置関係を確認し、その近接度合いにより、「高リスク」、「中リスク」、「低リスク」の3段階でリスクを評価しました。

  • 保護区:法的に保護されるエリアのうち、生物多様性保全の観点で特に重要であると考えられる、IUCNガイドラインでカテゴリⅠ~Ⅲにあたるもの及び国際的に重要性が認知されているラムサール条約湿地、世界遺産、生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)を対象とした。
  • KBA/AZE Site:生物多様性重要地域(Key Biodiversity Area)。また、KBAのうち、特に絶滅の危機に瀕する種に重要な地域がAZE Site:Alliance for Zero Extinction(AZE)Siteとして選定されている。
  • 熱帯原生林(Primary Forests):熱帯地方に分布する原生林で、高い生物多様性を有する。
  • マングローブ:マングローブ林は、高い生物多様性を有することが広く認識されている。
Global Forest Watchを活用した生態系のセンシティビティ確認のイメージ
(図では、KBAを表示)
樹木被覆の減少

「Global Forest Watch」を活用し、事業拠点周辺における樹木被覆の減少が大きいエリアを確認し、その度合いに応じて、「高リスク」、「低リスク」の2段階でリスクを評価しました。

Global Forest Watchを樹木被覆の減少リスク確認のイメージ
先住民族・コミュニティの土地

先住民族やコミュニティの生活や生計は、土地、資源、水などの自然資本と深く結びついている場合があり、そのような重大な依存関係にある土地が分布する可能性があるエリアを確認するため、「Global Forest Watch」を活用して事業拠点周辺を確認し、分布の有無及び評価データの有無に応じて、「高リスク」、「中リスク」、「低リスク」の3段階でリスクを評価しました。

Global Forest Watchを活用した先住民族・コミュニティの土地リスク確認のイメージ

4.3.2 サプライチェーンについての取り組み

当社グループの直接操業事業のみならず、サプライチェーン上の自然への高依存・インパクトセクターに対するリスク評価も必要であると認識しており、その方法について検討を開始しています。特定した高依存・インパクトセクターの情報、SBTN(※)が公開しているハイインパクトコモディティリストに掲載された商材の取り扱い有無、行使できる影響力の大きさなど多様な情報を考慮し、リスクベースアプローチで取り組むべく、優先的に取り組む対象(優先サプライチェーン)の特定を行っています。

  • SBTN(Science Based Targets Network):企業が自然環境に与える影響を科学的に評価し、持続可能な社会の実現に向けた目標を設定することを促すフレームワーク。自然への影響の大きい約50種類の原材料をハイインパクトコモディティとしてリスト化し公開している。

5. 測定指標とターゲット

5.1 全社目標

当社はマテリアリティの一つである「自然資本を保全・再生する」の中期目標として「2030年ネイチャーポジティブに向けた取り組みの促進」を設定しています。さらに、この中期目標に対する理解醸成・取り組み強化を目的として、当社にとってのネイチャーポジティブに向けた取り組みを「事業による自然資本への影響を最小化し、自然資本の保全・再生に向けてビジネスを変革し続けていくこと」と定義しており、事業を通じたリスク低減および機会創出の両面で取り組んでいきます。

  • マテリアリティに関する中長期目標の詳細についてはこちらをご覧ください。

5.2 各事業における指標・目標

当社グループの事業は非常に多岐に渡ることから、各事業におけるリスク・機会に対する指標・目標の設定が重要となります。各SBUではマテリアリティに関連する目標を任意で設定しています。
また既に分析を実施した優先5事業におけるグローバル中核開示指標及びセクター別指標については、4.リスクとインパクト管理をご覧ください。

6. Appendix: TNFD一般要件への対応

本トライアル開示におけるTNFDガイダンスの6つの一般要件への対応は以下の通りです。

  1. マテリアリティの適用
    当社グループの自然資本への依存に加え、自然資本に与えるインパクトについても考慮する、ダブルマテリアリティ(※)の考え方を採用しています。
  2. 開示のスコープ
    当社グループの事業に加えて、サプライチェーンについてもスコープに入れる必要があると認識しています。そのため、当社グループ事業の分析に加え、サプライチェーン分析の検討も開始しました。
  3. ロケーション
    自然資本への依存・インパクトが大きいセクターおよびそれに紐つく優先事業を特定する、リスクベースアプローチを採用しています。優先事業については、ロケーション情報を踏まえた個別の分析を実施しました。
  4. 他のサステナビリティ関連課題との統合
    当社グループでは、TNFDのみならず気候変動についてはTCFDに基づく開示を実施している他、人権にかかわる事項などテーマごとの開示を行っていますが、それぞれが相関関係にあることを認識しており、その関連性についても言及しています。今後は環境のみならず社会関連リスクも含めた総合的なリスク評価・管理と、統合的な開示の拡充を検討していきます。
  5. 対象期間
    従来の取り組みも含め俯瞰的に記載しています。
  6. ステークホルダー・エンゲージメント
    「環境方針」「住友商事グループ人権方針」に基づき、従来から個別事業ごとに先住民や地域コミュニティを含めたステークホルダー・エンゲージメントを実施。取り組み・開示内容ともに投資家をはじめとしたステークホルダーとの対話を積極的に進める方針です。
  • ダブルマテリアリティ:環境・社会の課題が企業活動やビジネスモデルに及ぼすリスクと機会を重視する視点に加えて、企業活動やビジネスモデルが環境・社会に与えるインパクトも同等に重視する考え方。

“No Net Loss, Net Gain”を目指すアンバトビー・プロジェクト

ニッケル、コバルト等の供給拡大に向けて、2007年からマダガスカル共和国で建設を進めてきた世界最大級の鉱山開発事業である「アンバトビー・プロジェクト」では、”No Net Loss, Net Gain”を環境目標に掲げ、独自の生物多様性プログラムを実施しています。

アンバトビー・プロジェクトは、採掘場や精錬工場、パイプライン等の多くの施設を新たに建設・運営するため、周辺の環境に与える影響も少なくありません。特にマダガスカルには、1,000種もの希少動物が生息する世界的にも貴重な自然環境が残されています。そのため、アンバトビー・プロジェクトでは、こうした自然環境に対する十分な配慮のもとに開発・運営を進めるため、全てのサイトへの影響が考慮された生物多様性プログラムを実施しています。プロジェクトの計画・実行に際しては、 ISO14001に基づいた「アンバトビー環境マネジメントシステム(EMS)」に則った管理を行っており、マダガスカルの国内法の遵守はもちろん「世界銀行セーフガード・ポリシー」をはじめ「国際金融公社(IFC)パフォーマンス・スタンダード」「世界保健機構(WHO)基準」「赤道原則」等、さまざまなガイドラインに準拠した環境マネジメントを実施しています。

また、アンバトビーEMSのもと、動植物・海洋生態系を含むいくつかの重点分野を定め、建設・操業・閉山時に工場・港湾施設等、事業に関連する地点において管理計画を策定し、計画に基づいた運営も行っています。例えば、鉱区の開発にあたっては、約1,600haの鉱山サイトの周辺に、樹種に棲み着いた生息動物が移動できるようバッファーゾーン(緩衝地帯)を設けました。その他、 国際環境NGO等と共同で実施した生態調査の結果、保護が必要と判断された絶滅危惧種等については、保護区内に移植したり、養魚システムで飼育したりする等、さまざまなプログラムを実施して生態系への負荷低減を図っています。

さらに、生物多様性プログラムの一環としては、政府や地域コミュニティ、保全・開発NGOと協力し、IFC及びBBOPの基準を適用して大規模な「生物多様性オフセットプログラム」も推進しています。これは開発による生態系への影響を、別の生態系を復元・創造する等し、緩和しようというアプローチであり、具体的には開発地域に類似した生態系を持つアンケラナ地区で森林約4,900haの保全を行っている他、採掘場近隣エリアの保全やパイプライン埋設後の再植林、閉山後に向けた採掘場の再植林等も含め、4カ所の保全エリアで、インパクトを受けたエリア面積の約9倍の総面積(約14,000ha)の保全によりNo Net Loss達成を目指しています。なお、オフセットを含む生物多様性プログラムにおいては、事業による影響だけでなく、それ以前に受けた影響についてもコントロールする包括的アプローチを取っています。

Ambatovy Sustainability Report 2023

希少植物の調査及び保全
希少植物の調査及び保全
希少種コクレルシファカ
希少種コクレルシファカ
伐採後の再植林
伐採後の再植林
希少種カンムリシファカ
希少種カンムリシファカ
株式会社ディ・エフ・エフ

アンバトビー・プロジェクトを通じて参画するBBOP(ビジネスと生物多様性オフセットプログラム)

Business and Biodiversity Offsets Program(BBOP:ビジネスと生物多様性オフセットプログラム)は、企業や政府、NGOを含む専門家等が参画し、生物多様性オフセットに関する国際基準を作成しようというイニシアチブです。BBOPは成功裏に終了し、生物多様性条約においても参照される等、生物多様性オフセットに関する国際基準となっています。マダガスカルのアンバトビー・プロジェクトは現在もこの基準に準拠し、生物多様性保全と地域住民の生活とのバランスを取りながら、活動を継続しています。

BBOPオフセットの10原則

1 ミティゲーション・ヒエラルキー
(適切な回避策、軽減策、修復策の後にオフセットを実施する)
2 オフセットの限界(生物多様性の置換不可能性と脆弱性により、オフセットでは完全に代償できない影響がある)
3 景観的観点(生物多様性の生物、社会、文化的価値の総合的情報を考慮した保全効果を実現するためのオフセット立案と実施)
4 ノーネットロス(結果としての生物多様性のノーネットロス、望ましくはネットゲイン)
5 追加的な保全効果(オフセット未実施の結果以上の保全効果)
6 ステークホルダー参加(オフセットにかかる意思決定へのステークホルダーの参加)
7 衡平性
(権利、責任、リスク、便益の衡平な分配と先住民族とローカルコミュニティへの配慮)
8 長期的効果(プロジェクト影響の続く限りの長期的効果、望ましくは永続性の確保)
9 透明性(オフセット立案、実施、結果の公開と時宜を得た透明性の確保)
10 科学的、伝統的知識(科学的情報と伝統的知識に裏打ちされたプロセス)
株式会社ディ・エフ・エフ

風力発電事業におけるバードストライク対策

南アフリカEastern Cape地方の山間部で約130km2の土地を利用して行っているDorper風力発電事業では、付近に生息する鳥やコウモリ等の飛翔生物が風車に衝突する事故(バードストライク)の対策に取り組んでいます。

バードストライクの原因は、風車が建設されている放牧地において、家畜等の死骸に鳥が集まることにあります。当事業では、地元住民を雇用して発電所内の動物の死骸処理の徹底、絶滅危惧種と思われる鳥類が風車付近を迂回していないかの目視確認、発見した場合の風車の非常停止通知の発信等の対策を施し、野生生物保全と風力発電事業の共存を目指しています。

南アフリカDorper風力発電
南アフリカDorper風力発電
株式会社ディ・エフ・エフ

バードフレンドリー®認証コーヒー事業

当社グループは、生物多様性に配慮し、農家の安定収入にもつながる取り組みとして、2004年からバードフレンドリー®認証コーヒー(以下、BF®認証コーヒー)の輸入・販売を手掛け、2014年度からは住商フーズにてBF®認証コーヒーを取り扱っています。BF®認証コーヒーは、自然林と同様のシェード(木陰)を保ちながら栽培することで、環境保全やそこで羽を休める渡り鳥の保護につながる取り組みです。米国スミソニアン渡り鳥センターがその認証基準を設定し、現在、全世界で11カ国(※1)54農園・農協(2025年4月現在)が認証を受け、収益の一部は、同センターの渡り鳥の研究・調査・保護活動に使われています。

バードフレンドリー

本事業は、2019年、国際自然保護連合日本委員会が認定する「国連生物多様性の10年日本委員会(※2)(UNDB-J)認定連携事業」に認定されました。UNDB-Jの認定連携事業になったということは、生物多様性保全活動として重要な活動であり、また、「愛知目標(※3)」の達成に向けて成果を上げてきた活動であることを意味します。
今後も本事業を通して、世界中の渡り鳥保護・生態系保護に貢献していきます。

  1. 11カ国:エチオピアペルーエルサルバドルコロンビアグアテマラ、ニカラグア、ボリビア、ホンジュラス、インド、メキシコ、ベネズエラ(太字は2024年度の日本向け輸入実績あり)
  2. 国内のあらゆるセクターの参画と連携を促進し、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する取り組みを推進するために2011年9月に設立された委員会。
  3. 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された、生物多様性保全のための新たな世界目標。
この事業は、「国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)」が推奨する事業として認定を受けています。
この事業は、「国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)」が推奨する事業として認定を受けています。
ホンジュラスの認証農園にて
ホンジュラスの認証農園にて
エルサルバドルの認証農園にて
エルサルバドルの認証農園にて
グアテマラの認証農園でのコーヒー収穫
グアテマラの認証農園でのコーヒー収穫
株式会社ディ・エフ・エフ