「生物多様性」についてご紹介している住友商事のサステナビリティページです。
住友商事グループの事業活動は、地球上の多様な生物とそれらのつながりにより生み出される生物多様性がもたらす恵みに大きく依存しています。従って、当社グループの環境方針で明示している通り、自然生態系等の環境保全ならびに生物多様性の維持・保全に十分配慮することは当社グループにとって重要な課題であると認識しています。生物多様性に重大な影響を与え得る事業活動に関して、どのように生物多様性に依存しているのか、また、どのような影響を与えているのかを把握した上で、生態系への影響を最小化し、回復にも寄与することに努めます。
新規事業の審査過程や既存事業のモニタリングにおいても、生態系への影響を含む社会・環境に関するリスクの評価や管理・改善状況の確認を行っています。
当社は、2022年6月にTNFD(※)の理念に賛同し、その活動を支援しサポートするTNFDフォーラムに参画しました。また2024年1月には、TNFDが2023年9月に公表した開示提言を早期採用する「TNFD Early Adopter」に登録し、2025年度中のTNFD提言に基づく開示を目指しています。
2024年5月に更新したマテリアリティでは、その一つに「自然資本を保全・再生する」を掲げ、その中期目標として「2030年ネイチャーポジティブに向けた取り組みの促進」を設定するなど、当社としての自然資本に関連する中長期のコミットメントを改めて示しました。
当社は、従来の自然資本に関する取り組みを整理した上で今後の取り組みを加速させ、開示情報の充実につなげるために、TNFD提言に基づくギャップ分析を実施しました。当社が事業を展開するセクターや地域は広範であるため、自然関連リスク・機会の分析対象になり得る事業およびテーマも多岐に渡りますが、分析を事業運営に活用し、ステークホルダーに有用な情報開示を行うため、自然資本への依存・インパクトの大きいセクターを特定し、それらを深堀するリスクベースアプローチを取ることとしました。
今般、分析の内容を2025年度の開示に先駆けてトライアル開示します。本トライアル開示の目的は、当社の取り組み内容・課題・今後の展望を中間報告することで、ステークホルダーとの対話ツールとして活用し、より良い取り組み・開示の充実を実現することです。トライアル開示内容は以下のように整理しています。
出典:自然関連財務情報開示タスクフォースの提言
TNFD4つの柱 | 自然関連の主な取り組み |
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ガバナンス |
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戦略 |
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リスクとインパクトの管理 |
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測定指標とターゲット |
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当社グループでは、サステナビリティ全体に関するガバナンス体制の下で、リスクや機会の評価、意思決定、業務執行・監督を行っています。取締役会の監督、経営者の役割については当社ウェブサイト「サステナビリティ経営のガバナンス」をご参照ください。当該ページで記載されている、サステナビリティ関連の重要な経営事項、サステナビリティ経営施策には自然資本のトピックスを含んでいます。
また、サステナビリティ施策等について経営会議から諮問されるサステナビリティ推進委員会、そのサステナビリティ推進委員会に対して自然分野を含むサステナビリティに関する助言を行う外部有識者からなるサステナビリティ・アドバイザリーボードを設置し、複雑で専門性を要する課題に関する経営の意思決定に反映させる体制としています。2023年度には、自然資本のマテリアリティへの追加と取り組み強化等について、サステナビリティ・アドバイザリーボードより助言を得ました。
当社グループでは取締役会・経営会議での議論を経て各種方針を定め、その方針に基づき事業運営をしています。具体的には、「環境方針」に基づいた循環型社会構築への寄与等を含めた自然資本への取り組み、「気候変動問題に対する方針」に基づいた2050年の自社事業および社会のカーボンニュートラル化に向けた取り組み、「住友商事グループ人権方針」および国際規範(※)に基づき先住民・地域住民も含めた多様なステークホルダーとのエンゲージメントを含めたリスク低減の取り組みを、ガバナンス体制の基で執行・監督しています。
それぞれの詳細は以下をご参照ください。
「環境方針」およびその取り組み
「気候変動問題に対する方針」およびその取り組み
「住友商事グループ人権方針」およびその取り組み
当社グループでは、気候変動や生物多様性の損失など近年の社会課題の一層の深刻化や、当社グループの強み、ステークホルダーからの期待も踏まえ、社会課題の解決を通じて持続的な成長を実現すべく、2024年5月に「マテリアリティ」を更新し、「自然資本を保全・再生する」を新たに掲げました。この「自然資本を保全・再生する」の実現に向けて、「2030年ネイチャーポジティブに向けた取り組みの促進」を中期目標として設定しており、自然資本に関する当社グループの中長期のコミットメントを示しました。2030年ネイチャーポジティブに向けては、従来の取り組みも活かしながら、自然関連のリスクの低減と機会の捕捉の双方を戦略に反映することが重要と認識しています。
リスク低減については、まず「環境方針」において、自然生態系等の環境保全ならびに生物多様性の維持・保全に十分配慮することを掲げています。環境方針に則り、従来より自然関連リスクが高いと考えられる、鉱山事業、大規模開発事業(発電事業など)、森林事業などについては、国際基準や各国法令等に基づく環境影響評価の実施、個別方針策定やサプライヤー管理等により、個別に自然資本へのインパクトを緩和する対策を実施してきました。例として、森林事業について持続可能な森林経営を定める森林経営方針、当社事業が調達する林産物について環境、社会面でのコミットメントを掲げる林産物調達方針を策定しており、方針に沿って事業を運営しています。(詳細はこちらをご覧ください)。
また2030年ネイチャーポジティブに向けた新たな施策として、自然資本への依存・インパクトが大きいため優先対応が必要とされるセクターの特定、およびそのセクターに該当する当社グループ事業の特定と取り組みの把握・促進に着手しています。その最初のステップとして、2024年度は、当社が事業展開をする全セクターの自然資本への依存とインパクトを分析し、高依存・インパクトセクター(20セクター)を特定しました(詳細は後述のリスクとインパクトの管理を参照)。特定されたセクターには、既に個別に自然資本へのインパクトを緩和する対策を実施している鉱山セクター、森林セクターなどが含まれており、従来から個別に実施している取り組みの妥当性を確認することができました。
機会の捕捉については、従来の地域・ビジネス領域を超えた事業開発に挑戦しています。特に循環型経済への転換を促す製品・サービス・仕組みづくりに大きな事業機会があると捉えており、太陽光パネルのリユース・リサイクル事業確立に向けた実証実験に着手するなど、具体的な取り組み事例も出てきています。また2023年度には、ネイチャーポジティブに向けた機運の高まりを機会として捉え、営業グループ・コーポレートから多様なメンバーが集まる社内横断ワーキンググループを組成し、自然に関連する事業の創出に取り組んでいます。加えて、自然関連の取り組みに対する企業への要請・期待が高まっているなか、前述のリスク低減策を実行することで、取引先や消費者の評価を得て事業拡大につながるケースもあると認識しています。新たに掲げたマテリアリティの社内浸透をはかり、自然資本を保全するのみならず再生・有効活用も追及していくことで、価値創造につなげていきます。
なおネイチャーポジティブに向けた取り組みについては、今後国際的なルールや指標の策定・更新が見込まれるなど、社会全体として発展過程にあるものと認識しています。したがって上記戦略についても、投資家をはじめとしたステークホルダーとの対話を積極的に行いながら、外部環境の変化を正しく捉え、必要に応じて更新・対応していきます。
当社グループの事業活動は様々な社会課題と関わりを持っており、常にそれらの社会課題を経営判断や事業の執行に反映させるため、各事業から生じる社会・環境への影響を適切に評価、管理し対処するための全社的なフレームワーク、方針を設定し、グループ内で周知・徹底を図っています。社会・環境関連リスクの考え方、管理体制の詳細については、リスクマネジメントをご覧ください。
新規投資の審査プロセスにおいては、まず投資の実行主体である担当SBUが社会・環境関連リスクの評価シートを作成し、対象事業の価値創造及び価値棄損に関する重要な対応策を検討・確認しています。この評価シートでは、人権・地域社会への影響、環境汚染・自然破壊、気候変動リスクなど、大きく8つの社会・環境項目について、新規事業(投資先企業)の自社事業活動および事業パートナー/下請け先/直接の仕入れ先における影響について評価し、問題・課題が認められた場合には国際的な基準・標準等も参照しながら必要な対応を実施します。その結果は案件の規模や重要性に応じて経営会議の諮問機関である全社投融資委員会での審議に活用され、審議内容を踏まえて経営会議・取締役会等で意思決定が行われています。
当社グループの既存事業は多岐にわたるため、事業セクター・地域に応じて自然資本への依存やインパクトなどの自然との関係性が異なります。そういった事業特性を踏まえて従来個別の取り組みを進めてきましたが、中期目標で掲げた「2030年ネイチャーポジティブに向けた取組みの促進」のためには全社視点でのリスクとインパクトの整理および施策検討も必要と考えています。そこで新たに、全社横断的に当社グループの事業をサプライチェーンも含めて俯瞰し、自然資本への依存・インパクトが大きい事業を特定し優先的に管理・対応を行うリスクベースアプローチに基づく取り組みに着手しました。
2024年度は、TNFD提言などの手法を参考に、専門家による助言に基づき、国際的に活用されている分析ツール「ENCORE(※)」を用い、一般的な自然資本への依存とインパクトの要素を分析し、当社グループが事業を展開している多様なセクターの中から、高依存・インパクトセクター(20セクター)を特定しました。具体的には、ENCOREで規定されている自然資本への依存・インパクトの要素33項目(水の利用、土壌の質等)についてセクターごとに依存とインパクトを評価し、その結果に基づき、依存とインパクトのレベルを「Very High (VH)」、「High (H)」、「Medium (M)」、「Low (L)」の4段階で算出しました。そして、依存レベルとインパクトレベルのどちらかが最も高いVHであるか、依存レベルとインパクトのレベルの両方が2番目に高いHであるセクターを、高依存・インパクトセクターとして選定しました。
これらの20セクターにおける自然資本への依存については、その多くの依存レベルがH以上と高く、特に森林事業、養殖業、畜産業、農業では、VHと依存レベルが高いことがわかりました。例として、依存レベルが最も高いVHである農業セクターでは、灌漑を行う場合など農作物の生育に多量な水が必要となることから地下水への依存が大きくなっているほか、植生が持つ洪水調整機能や土壌の浸食防止機能が、農作地の保護や維持に重要であるため、植生への依存が大きくなっています。
※白色はENCOREでのデータなしの項目
一方、自然資本へのインパクトについては、20セクター全てにおいてH以上となっており、特に住宅建設や水力発電、鉱山などのセクターで、VHとなることわかりました。例として、インパクトレベルが最も高いVHである鉱山セクターでは、鉱山開発による大規模な土地改変が陸上生態系に大きな影響を及ぼす可能性があるほか、鉱石の処理のために多量の水を使用することで水資源の枯渇に繋がる可能性があるため、陸上生態系の利用と水利用のインパクトが大きくなっています。
※白色はENCOREでのデータなしの項目
特定した結果に基づき、まずは高依存・インパクトセクターに属する当社グループ事業について、個別の分析およびリスクと機会の評価を進めていきます。また今後当社事業のサプライチェーンに高依存・インパクトセクターがある場合の評価も実施していく必要があると認識しており、その方法も現在検討中です。今回特定した高依存・インパクトセクターの情報を活用しながら、SBTN(※)が指定しているハイインパクトコモディティ関連の事業等サプライチェーン特有の観点も組み合わせて、優先的に取り組む対象(優先サプライチェーン)を特定し、当社グループ事業同様にリスクベースアプローチで取り組む方向で検討しています。
当社は2030年ネイチャーポジティブに向けた取り組みを進めることを中期的な目標として掲げ、SBUでは関連する目標を任意で設定しています。目標の詳細については【参考】重要社会課題と長期・中期目標をご参照ください。取り組みをさらに推進するため、当社におけるネイチャーポジティブの定義明確化を検討しており、リスクとインパクトの管理で記載した自然資本への依存とインパクトを把握した結果も踏まえて、全社的な指標・目標の必要性・有効性の検討、および当社におけるネイチャーポジティブの定義明確化を実施していきます。
またリスクベースアプローチに基づいて、TNFDにより開示が推奨されるグローバル中核開示指標及びセクター別指標も、今後特定する優先事業および優先サプライチェーンを対象に開示を検討していきます。優先事業については、個別のLEAP分析を実施することで、事業の実態や事業所在地周辺の自然資本の特性を踏まえた指標、目標の設定検討を進める予定です。
なお高依存・インパクトセクターの一つである森林事業について、ニュージーランドにおける森林事業を対象に、LEAPアプローチに沿ったトライアル分析を行い、自然資本に係る依存とインパクト、リスクと機会を特定し、今後の取り組みの指標、目標を定めています。(詳細はニュージーランド森林事業のLEAP分析をご覧ください。)
当社では、2022年のTNFDフォーラムへの参画以降、一部の個別事業を対象としたLEAP分析や本トライアル開示に向けた情報の整理を通して、事業活動と自然資本との関係性と求められる取り組みについて理解を深めています。一方で、価値創造に資する自然資本の取り組みと情報開示の在り方については継続して議論を重ねていく必要があります。
これまでの取り組みを踏まえて、現在認識している主な課題は以下の通りです。
最後に、TNFDの4つの柱毎に前述の課題を踏まえた今後の展望を示します。本トライアル開示を活用してステークホルダーとの対話を積極的に重ねると共に、自然資本の保全・再生に向けた取り組みを推進し、2025年度のTNFD提言に基づく本開示の充実につなげていきます。
TNFD4つの柱 | 今後の展望 | 対応するTNFD提言 |
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ガバナンス |
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戦略 |
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リスクとインパクトの管理 |
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測定指標とターゲット |
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本トライアル開示におけるTNFDガイダンスの6つの一般要件への対応は以下の通りです。
当社は、TNFD最終提言公開に先んじて、TNFDベータ版(v0.4)に基づき、トライアルとして2023年度にニュージーランド(NZ)における森林事業のLEAP分析を実施しました。TNFDのフレームワークを理解し、基準の更新に貢献することを目的としたもので、分析を通じて得たインサイトはTNFDにフィードバックしました。
その後2024年度には、当社の多岐に渡る事業群のなかで優先的に取り組みを進める事業を特定するため、まずは一般的な情報から20の優先セクターを特定しました。そのなかには森林事業も含まれており、2023年度NZ森林事業をトライアル分析の対象としたことの妥当性を確認しました。今後優先事業を特定し、個別の分析を進める際にも、NZ森林事業のトライアル分析から得たインサイトを活用していきます。
なお、本トライアル分析はTNFDベータ版(v0.4)に基づく2023年9月時点のものですが、その後公表された最終提言においてもLEAP分析の推奨内容に変更はないことを確認しています。
当社では、TNFDの推奨する分析手法であるLEAPアプローチの手順に従ってトライアル分析を行いました。今回はニュージーランドにおける森林事業を深堀分析対象とし、ニュージーランド国内の4事業拠点別に各地域性も踏まえた分析を行った点が本分析の特徴です。
TNFDが推奨する分析ツールであるENCOREを用いて、事業本部別に一次スクリーニングを行い、金属資源の精錬や石油の採掘、農産物、不動産、森林に関連する事業においてリスクスコアが高いことを確認しました。また、ENCOREでの事業本部別分析の他、TNFDベータ版においては、森林経営やバイオ燃料関連事業等の「再生可能資源と代替エネルギー」が経済的影響を受けやすい優先セクターとして指定されています。それらの情報を踏まえ、自然関連の依存・影響・リスクが高い領域は原料調達を含むサプライチェーン上流であると整理し、本トライアル分析はニュージーランドで当社が保有するSummit Forests New Zealand社(以下、SFNZ社)を対象に行うこととしました。
社名 | Summit Forests New Zealand Ltd. |
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創業年 | 2013年 |
事業 | 森林の保有・管理輸出・伐採した自社材及び他社材を国内製材工場に販売または輸出 |
出資金 | NZD137百万(約102億円) / 当社出資比率100% |
事業拠点 | Auckland / Kaitaia / Gisborne / Coromandel |
伐採可能面積 | 5万ha(主な生育樹種:ラジアータパイン) |
森林事業の分析を行うに当たり、まずTNFDの推奨する分析ツールであるENCOREや論文等の情報を用いて、一般的な森林事業における依存・影響について確認した結果、「気候」と「土壌」に依存する事業であることが分かりました。
また、特にニュージーランドにおける森林事業は「安定的な気候」と「生育に適した土壌」に大きく依存すると整理しました。一方で、自然に与える影響の要素としては、過度な伐採や化学品の過剰利用による周辺地域の生態系破壊のリスクも懸念される業態でもあるため、「育林・伐採」「肥料・農薬」と整理しました。
TNFDのフレームワークが示すインパクトドライバー・自然の状態・生態系サービスを、SFNZ社の森林事業に当てはめ分類した結果、9項目のリスクを特定しました。なお、分類にあたっては、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)の森林事業リスクの例示を参考にしています。
特定した9つの事業リスクに対し、SFNZ社がニュージーランド国内で事業を行う4拠点別に、IBATをはじめとするTNFD推奨ツールを用いてリスク分析を行い、各リスクを、「事業に対する影響の程度(財務・法令の観点)」と「生じうる可能性(事業・リスク項目の関連性)」をそれぞれ定性的にマトリクス評価しました。その結果、「伐採・開発に関するリスク」、「自然災害発生に関するリスク」、「絶滅危惧種への影響に関するリスク」、「先住民の権利侵害に関するリスク」の4項目がSFNZ社の事業において重要な事業リスクであると特定しました。
事業リスク特定のアプローチと同様に、TNFDベータ版フレームワークで機会分類として挙げられているサブカテゴリ―を森林事業にあてはめたところ、6つの事業機会を識別しました。
特定した各事業機会を「事業に対する影響の程度(財務・法令等の観点)」と「生じうる可能性(事業・リスク項目の関連性)」についてそれぞれ定性的にマトリクス評価し、「木材関連市場の変化(CO2吸収クレジット)」、「木材生産性の向上」、「木材に関する認識の変化」をSFNZ社にとって重要度の高い事業機会として特定しました。
特定・整理をしたSFNZ社の事業における重要リスク・重要機会の項目をもとに指標と目標の設定を検討し、重要リスク項目については今後の事業運営における目標を設定、重要機会項目についてはそれぞれの一般的な事業活用例を整理しました。
SFNZ社が持つ事業リスクにおいて、生じうる可能性・事業に対する影響の程度が高く、当社として特に重大なリスクと認識している項目に対し、昆明・モントリオール生物多様性枠組(以下、GBF)をもとに、森林経営計画書記載の取り組みを踏まえて具体的な事業目標を設定しました。なお、すでに目標達成に寄与する活動にも多く取り組んでおり、それらの活動については継続していくことを目指します。
リスク項目 | 参考とするGBF指標 | 目標 | すでに取り組んでいる、目標達成に寄与する取り組み | |
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事業にかかわる重要リスク | 先住民の権利侵害 | ターゲット22 |
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絶滅危惧種への影響 | ターゲット4 |
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伐採・開発 | ターゲット1 |
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自然災害発生 | ターゲット11 |
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SFNZ社が持つ事業機会において、生じうる可能性・事業に対する影響の程度が高く、当社として特に重要と捉える事業機会を整理し、それらについては以下の具体的な事業機会例を整理しました。
木材関連市場の変化(CO2吸収クレジット)
ニュージーランド排出権取引制度への正式参入
現存している森林資源のCO2吸収価値をクレジット化して販売することで、新たな収益源にするだけでなく、気候変動対策と生物多様性保全の両面に貢献できると言われています。
Summit Forests New Zealand社として保有する6.6万haの森林吸収量を活かした、ニュージーランド排出権取引制度(NZ-ETS)への参入により、新たな収益源の拡大が見込まれます。
木材に関する認識の変化
FSC認証取得の維持・促進による収益拡大
ニュージーランドでは、政府による厳格な森林管理制度が確立されており、加えて政府主導の合法的保証制度が整備段階にあります。さらに、国全体としてFSC認証の取得・促進が進んでいる状況です。
Summit Forests New Zealand社では大部分の林区でFSC認証を取得しているため、社会・消費者の認識の変化によって認証材の需要が高まることにより、収益拡大に寄与する可能性が考えられます。
木材生産性の向上
林業のデジタル化・スマート化
林業のIoT化は、森林の健康状態を適切に把握できるため、良質な木材の安定生産に繋がります。
6.6万haを保有・管理しているSummit Forests New Zealand社では、GIS(地理情報システム)を用いた地形把握を行っておりますが、森林の資源量をレーザー計測する技術を導入すること等によって、収益拡大に繋がる可能性があります。
トライアル分析のプロセス・結果を踏まえ、TNFDフレームワークに基づく開示を投資家の皆様にとってより有用な情報とするため、以下2点を当社よりTNFDへフィードバックとして提出しました。
ニッケル、コバルト等の供給拡大に向けて、2007年からマダガスカル共和国で建設を進めてきた世界最大級の鉱山開発事業である「アンバトビー・プロジェクト」では、”No Net Loss, Net Gain”を環境目標に掲げ、独自の生物多様性プログラムを実施しています。
アンバトビー・プロジェクトは、採掘場や精錬工場、パイプライン等の多くの施設を新たに建設・運営するため、周辺の環境に与える影響も少なくありません。特にマダガスカルには、1,000種もの希少動物が生息する世界的にも貴重な自然環境が残されています。そのため、アンバトビー・プロジェクトでは、こうした自然環境に対する十分な配慮のもとに開発・運営を進めるため、全てのサイトへの影響が考慮された生物多様性プログラムを実施しています。プロジェクトの計画・実行に際しては、 ISO14001に基づいた「アンバトビー環境マネジメントシステム(EMS)」に則った管理を行っており、マダガスカルの国内法の遵守はもちろん「世界銀行セーフガード・ポリシー」をはじめ「国際金融公社(IFC)パフォーマンス・スタンダード」「世界保健機構(WHO)基準」「赤道原則」等、さまざまなガイドラインに準拠した環境マネジメントを実施しています。
また、アンバトビーEMSのもと、動植物・海洋生態系を含むいくつかの重点分野を定め、建設・操業・閉山時に工場・港湾施設等、事業に関連する地点において管理計画を策定し、計画に基づいた運営も行っています。例えば、鉱区の開発にあたっては、約1,600haの鉱山サイトの周辺に、樹種に棲み着いた生息動物が移動できるようバッファーゾーン(緩衝地帯)を設けました。その他、 国際環境NGO等と共同で実施した生態調査の結果、保護が必要と判断された絶滅危惧種等については、保護区内に移植したり、養魚システムで飼育したりする等、さまざまなプログラムを実施して生態系への負荷低減を図っています。
さらに、生物多様性プログラムの一環としては、政府や地域コミュニティ、保全・開発NGOと協力し、IFC及びBBOPの基準を適用して大規模な「生物多様性オフセットプログラム」も推進しています。これは開発による生態系への影響を、別の生態系を復元・創造する等し、緩和しようというアプローチであり、具体的には開発地域に類似した生態系を持つアンケラナ地区で森林約4,900haの保全を行っている他、採掘場近隣エリアの保全やパイプライン埋設後の再植林、閉山後に向けた採掘場の再植林等も含め、4カ所の保全エリアで、インパクトを受けたエリア面積の約9倍の総面積(約14,000ha)の保全によりNo Net Loss達成を目指しています。なお、オフセットを含む生物多様性プログラムにおいては、事業による影響だけでなく、それ以前に受けた影響についてもコントロールする包括的アプローチを取っています。
Business and Biodiversity Offsets Program(BBOP:ビジネスと生物多様性オフセットプログラム)は、企業や政府、NGOを含む専門家等が参画し、生物多様性オフセットに関する国際基準を作成しようというイニシアチブです。BBOPは成功裏に終了し、生物多様性条約においても参照される等、生物多様性オフセットに関する国際基準となっています。マダガスカルのアンバトビー・プロジェクトは現在もこの基準に準拠し、生物多様性保全と地域住民の生活とのバランスを取りながら、活動を継続しています。
1 | ミティゲーション・ヒエラルキー (適切な回避策、軽減策、修復策の後にオフセットを実施する) |
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2 | オフセットの限界(生物多様性の置換不可能性と脆弱性により、オフセットでは完全に代償できない影響がある) |
3 | 景観的観点(生物多様性の生物、社会、文化的価値の総合的情報を考慮した保全効果を実現するためのオフセット立案と実施) |
4 | ノーネットロス(結果としての生物多様性のノーネットロス、望ましくはネットゲイン) |
5 | 追加的な保全効果(オフセット未実施の結果以上の保全効果) |
6 | ステークホルダー参加(オフセットにかかる意思決定へのステークホルダーの参加) |
7 | 衡平性 (権利、責任、リスク、便益の衡平な分配と先住民族とローカルコミュニティへの配慮) |
8 | 長期的効果(プロジェクト影響の続く限りの長期的効果、望ましくは永続性の確保) |
9 | 透明性(オフセット立案、実施、結果の公開と時宜を得た透明性の確保) |
10 | 科学的、伝統的知識(科学的情報と伝統的知識に裏打ちされたプロセス) |
南アフリカEastern Cape地方の山間部で約130km2の土地を利用して行っているDorper風力発電事業では、付近に生息する鳥やコウモリ等の飛翔生物が風車に衝突する事故(バードストライク)の対策に取り組んでいます。
風車は放牧地に建設されており、家畜等の死骸に鳥が集まることがバードストライクの原因であるため、発電所内の動物の死骸処理を徹底するとともに、絶滅危惧種と思われる鳥類が風車付近を迂回していないかの目視確認、発見した場合の風車の非常停止通知の発信等を地元住民を雇用して行っており、野生生物保全と風力発電事業の両立を目指しています。
当社グループは、生物多様性に配慮し、農家の安定収入にもつながる取り組みとして、2004年からバードフレンドリー®認証コーヒー(以下、BF®認証コーヒー)の輸入・販売を手掛け、2014年度からは住商フーズにてBF®認証コーヒーを取り扱っています。BF®認証コーヒーは、自然林と同様のシェード(木陰)を保ちながら栽培することで、環境保全やそこで羽を休める渡り鳥の保護につながる取り組みです。米国スミソニアン渡り鳥センターがその認証基準を設定し、現在、全世界で11カ国(※1)48農園・農協(2024年6月現在)が認証を受け、収益の一部は、同センターの渡り鳥の研究・調査・保護活動に使われています。
本事業は、2019年、国際自然保護連合日本委員会が認定する「国連生物多様性の10年日本委員会(※2)(UNDB-J)認定連携事業」に認定されました。UNDB-Jの認定連携事業になったということは、生物多様性保全活動として重要な活動であり、また、「愛知目標(※3)」の達成に向けて成果を上げてきた活動であることを意味します。
今後も本事業を通して、世界中の渡り鳥保護・生態系保護に貢献していきます。